解雇規制が厳しい日本で「正社員を雇わない」経営判断の合理性
なぜ今「正社員を雇わない」という選択肢が注目されているのか
「人が足りない」「業務が回らない」——そんな悩みを抱える経営者の方は多いでしょう。しかし、その解決策として安易に正社員を採用することは、本当に正しい判断なのでしょうか。
日本は世界でも類を見ないほど解雇規制が厳しい国です。一度正社員として雇用した人材は、たとえ業績が悪化しても、能力が期待に満たなくても、簡単には解雇できません。この「一度雇ったら辞めさせられない」という現実が、多くの中小企業の経営を圧迫しています。
人件費は企業にとって最大の固定費です。売上が下がっても、人件費は下がりません。むしろ、毎年の昇給、社会保険料の上昇、退職金の積み立てと、時間とともに増加していくのが一般的です。
この記事では、解雇規制の厳しい日本において「正社員を雇わない」という経営判断がなぜ合理的なのか、そしてどのように外部リソースを活用すればコスト削減とリスクヘッジを両立できるのかを、経営者の視点から詳しく解説します。
多くの経営者が陥る「採用の罠」
「優秀な人材を採用すれば会社は成長する」——この考え方自体は間違いではありません。しかし、現実はそう単純ではないのです。
採用してみないとわからない「ミスマッチ」
面接で好印象だった人材が、実際に働き始めると期待はずれだった。こんな経験をお持ちの経営者は少なくないでしょう。履歴書や職務経歴書は立派でも、実際の仕事ぶりは入社してみないとわかりません。
しかし日本では、「思っていたのと違った」という理由で解雇することはできません。試用期間であっても、正当な理由なく解雇すれば違法となります。結果として、期待に満たない人材を抱え続けることになり、その人件費は会社の利益を圧迫し続けます。
「解雇の四要件」という高いハードル
日本の判例法理では、整理解雇(いわゆるリストラ)を行うには「解雇の四要件」を満たす必要があります。
- 人員削減の必要性:経営上の理由により人員削減が必要であること
- 解雇回避努力:配置転換、希望退職募集など解雇を回避するための努力を尽くしたこと
- 人選の合理性:解雇対象者の選定基準が合理的であること
- 手続きの妥当性:労働者や労働組合と十分に協議したこと
これらすべてを満たさなければ、解雇は無効とされます。つまり、業績が悪化したからといって、すぐに人員削減できるわけではないのです。
裁判になれば、解雇が無効と判断される可能性が高く、その場合は解雇期間中の賃金をすべて支払う必要があります。加えて、弁護士費用や裁判にかかる時間と労力を考えれば、「雇わない」という選択肢がいかに合理的かがわかるでしょう。
人件費の「隠れたコスト」
正社員を1人雇うと、給与以外にも多くのコストが発生します。
- 社会保険料:給与の約15%を会社が負担
- 賞与:年間2〜4ヶ月分が一般的
- 退職金:長期勤務に備えた積み立て
- 福利厚生費:健康診断、研修、各種手当
- 採用コスト:求人広告、面接、入社手続き
- 教育コスト:OJT、外部研修、資格取得支援
年収400万円の社員を雇う場合、実際の人件費は500万円を超えることも珍しくありません。しかも、この費用は業績に関係なく毎年発生し続けます。
「正社員を雇わない」経営で実現するコスト最適化とリスク分散
では、人手が必要な業務はどうすればよいのでしょうか。答えは「外部リソースの戦略的活用」です。
正社員を雇わずに業務を回す方法は、実はたくさんあります。そして、それぞれの方法には明確なメリットがあります。
外部リソース活用による経営最適化
外部リソース活用の3つの大きなメリット
1. 変動費化によるリスク軽減
正社員の人件費は固定費ですが、外部リソースへの支払いは変動費です。業績が好調なときは多く発注し、厳しいときは抑える。このような柔軟な対応が可能になります。
2. 専門性の確保
正社員として雇うほどではないが、専門的なスキルが必要な業務は多いものです。外部の専門家に依頼すれば、必要なときに必要なスキルを、必要な分だけ調達できます。
3. 契約終了のシンプルさ
業務委託契約や派遣契約は、契約期間が満了すれば終了します。正社員の解雇のような複雑な手続きや法的リスクはありません。
外部リソース活用の具体的な方法と使い分け
では、具体的にどのような外部リソースをどう活用すればよいのでしょうか。業務の性質や必要なスキルによって、最適な方法は異なります。
外部リソースの活用ステップ
1. フリーランス・業務委託の活用
適した業務:デザイン、ライティング、プログラミング、コンサルティングなど
プロジェクト単位や成果物単位で契約するため、必要なときに必要なスキルを調達できます。クラウドソーシングサービスの普及により、優秀なフリーランスを見つけることも以前より容易になりました。
メリット
- 成果に対して報酬を支払うため、コストが明確
- 社会保険料などの負担がない
- 契約終了が容易
注意点
- 指揮命令関係に注意(偽装請負にならないよう)
- 品質管理は自社で行う必要がある
2. 人材派遣の活用
適した業務:事務、受付、データ入力、軽作業など
派遣会社が雇用主となるため、社会保険や労務管理の手間が省けます。派遣期間の上限(原則3年)はありますが、一時的な人員補充には最適です。
メリット
- 即戦力を素早く確保できる
- 労務管理の負担が軽減
- 派遣会社による人選・教育
注意点
- 派遣期間の制限あり
- 直接雇用の申し込み義務が発生する場合も
3. BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)
適した業務:経理、給与計算、カスタマーサポート、物流など
業務プロセス全体を外部企業に委託する方法です。単なる人員補充ではなく、業務の効率化やコスト削減まで含めて任せることができます。
メリット
- 業務効率の向上が期待できる
- コア業務に集中できる
- スケールメリットによるコスト削減
注意点
- 初期の移行コストと期間が必要
- 自社にノウハウが蓄積されにくい
4. 月額制サービス・サブスクリプション型支援の活用
適した業務:IT・DX推進、マーケティング、デザイン制作など
最近注目されているのが、月額固定で専門チームのサポートを受けられるサブスクリプション型のサービスです。
例えば、社内のDX推進やIT業務を外部の専門チームに任せる月額制自社DX推進部のようなサービスを活用すれば、ITエンジニアを正社員として雇用するリスクを負わずに、必要な専門性を確保できます。
メリット
- 月額固定で予算管理がしやすい
- 複数の専門家のスキルを活用できる
- 必要に応じてプラン変更・解約が可能
注意点
- 自社の要件に合ったサービスを選ぶ必要がある
- コミュニケーションコストは発生する
こんな経営者・企業におすすめの選択肢です
以下に当てはまる方は、「正社員を雇わない」という選択肢を真剣に検討する価値があります。
- 売上の変動が大きい業種の経営者
- 事業の方向性がまだ定まっていないスタートアップ
- 専門人材の採用に苦戦している中小企業
- 人件費の固定費化に不安を感じている経営者
- 過去に採用のミスマッチで苦労した経験がある方
- コア業務に集中したいと考えている経営者
特に、IT人材やデジタル人材の採用は年々難しくなっています。採用競争に勝てたとしても、その人材が本当に自社にフィットするかはわかりません。それなら最初から外部リソースを活用し、リスクを分散させる方が賢明な判断と言えるでしょう。
今すぐ検討すべき理由
経済環境の先行きは不透明です。コロナ禍を経験した私たちは、「いつ何が起こるかわからない」という現実を身をもって知りました。
固定費を抱え込むことは、不確実性の高い時代においては大きなリスクです。逆に、変動費中心の経営体制を構築しておけば、環境変化に柔軟に対応できます。
「人を雇う」という意思決定は、一度行えば簡単には取り消せません。だからこそ、その決定を下す前に、外部リソースの活用という選択肢を十分に検討すべきなのです。
まとめ:柔軟な経営体制が会社を守る
経営判断のまとめ
本記事のポイントをまとめます。
日本の解雇規制の現実
- 解雇の四要件を満たさなければ解雇は無効
- 人件費は固定費として経営を圧迫し続ける
- 採用のミスマッチは取り返しがつかない
外部リソース活用のメリット
- 人件費を変動費化してリスクを軽減
- 必要なスキルを必要なときに調達
- 契約終了がシンプルで法的リスクが低い
具体的な活用方法
- フリーランス・業務委託
- 人材派遣
- BPO
- 月額制サブスクリプションサービス
「正社員を雇わない」という選択は、決して後ろ向きな判断ではありません。むしろ、不確実性の高い時代において、会社を守り、持続的な成長を実現するための戦略的な経営判断です。
まずは自社の業務を棚卸しし、本当に正社員でなければできない業務は何か、外部リソースで代替できる業務は何かを整理してみてください。その上で、外部リソースの活用を検討してみることをおすすめします。
経営の柔軟性を高め、リスクを分散させる。それが、これからの時代を生き抜く経営者の賢い選択です。